君への想いを自首したら、君は許してくれるの?



* 2人裁判 *



「〜♪」

自然に出てくる鼻歌に、ユウは呆れ顔でこちらを見た。
そのまま笑顔でハミングを続けるオレに、ユウは溜息。

「ラビ…お前、呆れるほど機嫌がいいな」
「そう?」

自分では然したる自覚もないので、適当に相槌を打つ。
――そりゃ…いつも不機嫌そうなユウと比べたら、大抵のヤツは上機嫌に見えるさ。
そう思って苦笑したのがユウの気に障ったのか、キッと一瞬オレを睨む鋭い眼。

「お前の場合、いつも機嫌が良い」

ユウが見てるオレって、いつも上機嫌なんだ。

「んー? そうでもないさー」

オレだって落ち込む事はあるし、気分が乗らないときもある。
……ただのノーテンキな馬鹿とか思われてるんだったら、ちょっと心が痛いさー…。
案の定というか…オレが『そうでもない』と否定したのが意外だったのか、ユウは軽く目を見開いた。

「そうか? 俺が見てる限りじゃいつも…」

言いかけたユウを遮るように、オレは応える。
――それはさ…、

「それは…。俺が、ユウと一緒だと幸せになるからだって」

コレは本心。
好きなヤツと一緒に居るときに幸せになれなくて、人生の何処に幸せを見出すんだよ。
しかも、相手はユウだし。
オレの隣にユウがいて、幸せにならないわけがない。
自信満々に胸を張るオレに対して、

「……」

ユウから返ってきたのは沈黙だった。
『おや?』と思ったのも束の間、オレはすぐにピンときた。

「あ、照れてる」
「!?」

図星を指されたことが癪だったのか、
オレを睨み殺すような勢いで、ユウの眼がこっちを向いた。

「…そんな顔すんなよ」

――折角の可愛い顔が台無し……
とまで言っちゃうと、またまたユウが怒り出すのは必至。
オレは心の中でそっとユウにアドバイスを送るが、それは届かなかったらしく…
いつまでもユウは眼を吊り上げたままだった。

「で? ユウは?」

――オレと一緒のときも、対して他のヤツといるときと態度が違わないのは…どうして?

「は?」

内心で声を絞り出すようにして問いかけるも、実際の声になったのは一掴み。
ユウはワケが分からないという様に、僅かに首を傾げてオレを見た。
その無意識の所作に目を奪われてる自分に苦笑する。
オレって本当に、自分でも呆れるくらい、ユウのことが好きさ。
でも……

「ユウはオレと一緒の時も、不機嫌だけど?」

――それって、どうなの?

それが嫌だって言うんじゃない。改善して欲しいわけでもない。
不機嫌な顔してるのが、ユウの常だって知ってる。
ニコニコ笑ってる顔が見たいわけじゃない。
でも……、もしかして、オレと一緒にいるのが嫌だったら。
それは、オレが改善しないといけないことだから。
『恋人』っていうポジション、もっとライトな関係に切り替えないと駄目?

「俺は、これが普通だ」
「えー……」

そんなん、分かってるさ。
不満げに口を尖らせたオレから、ユウは僅かに視線を逸らした。

「別に不機嫌になってるわけじゃ…」

自分の無愛想さを自覚してるんかな?
ユウは誤魔化すように口篭って、それきりオレたちの間に沈黙が流れた。

「……」
「……」
「……」
「……なんだって言うんだ!」

沈黙に耐えられなくなったのは、ユウの方が先で。
痺れを切らしてオレに掴みかかってきた。
いつもなら、オレはもうとっくにユウのことを許して、
あんまり苛めるのも可哀想だからって、抱きしめたりキスしたりしてるけど。
今日は、許してもらうのはオレの方だから、それは出来ない。
真面目な顔したオレに、ユウはちょっとだけ怒気を削がれたみたい。
あまりにも儚げに変化してユウに、――不謹慎だけど――ちょっとだけ笑う。
そんなオレを見るユウの眼が、不安げに揺れた。

「オレと一緒は嫌?」

ユウが信じられないものを見るような眼で、オレを見た。
その見開かれた眼の中に、オレはどんな風に映ってる?
マジマジとオレの顔を……顔だけじゃなく、それこそ全身を見つめた後、
ユウの視線は虚空を彷徨った。
言うべき言葉を探すように、眼が泳ぐ。
そっと伏せられた目に、オレは判決の時を待った。

「嫌なら……誰が好んでお前の隣に居るか」

苦虫を噛み潰したような顔をして……、
とんでもなく言い辛そうにユウが口を開いた。
これじゃぁ、いつもと同じようにオレがユウを苛めてるみたいだ。
遠まわしな表現ながらも判決が下されて、オレは無罪放免。
俯き気味のユウに気づかれないように、そっと安堵の溜息をついた。

「じゃぁ、オレのこと好きなんだ?」
「!!」

弾かれたように顔を上げたユウに、オレは笑顔で応える。

「オレってユウと一緒ならいつも幸せ感じちゃうけど、ユウはどう?」

――オレだって不安になるときがあるんさ。
恋なんてもんは、いっつも不安定だから。
相手の一挙手一投足やその言葉の端々に、一喜一憂したりして。
それこそユウの姿を見かけるだけで嬉しかったり。
逆に他のヤツと話してるだけで妬いちゃったり。
オレが話しかけてるのに、無視したり無愛想だったりすると、
……正直な話、凹んじゃうんさ。

「な、なん……っ」

口をパクパクさせて、ユウは僅かに頬を染める。

「『何言ってるんだ?』って? だって、オレばっかり幸せなのって嫌だろ」

――両想いなら……

「贅沢な悩みかもしれないけど、オレは相手と同じ立場がいい」
「…………」

我侭を言ってるのも同然なオレに、ユウは沈黙した。
でも、それはジッとオレの話を聞いてくれている態度。
それを良いことに、見つめ合ったままでオレは言葉を続けた。

「どっちかが多く愛情注いじゃったりするより、同じだけ愛して、愛されたい」
「!!」

『愛』って言葉にビクッと身体を揺らして、ユウは情けない顔でオレを見た。
今は、きっと、オレも同じくらい情けない顔してるだろうから、お互い様。
オレは子供が縋るみたいに、ユウの服の袖口を少しだけ掴んだ。

「我侭だけど。ユウもオレのこと、好きでいてくれた方が嬉しいんさ」

言ったあとで、なんだか恥ずかしくなった。
いつも飽きるほど『好き』だなんて言ってるのに。
改めて口に出してみると、想いの大きさに気づいてしまう。
こんなに大きな想いと同じだけ、ユウがオレの事を好きになってくれてたら、
オレはもうそれだけで生きていける。

「ラビ……」

小さく名前を呼ばれても、何故か顔を上げる事ができなくて。
喉の奥で『ん?』と僅かに応えた。
耳を澄ましていないと聞こえないくらいの声。
情けない事に、今のオレの精一杯だった。

「……俺だって……」

ユウも、同じように消え入りそうな声を絞り出す。

「なに?」

思わず顔を上げて聞き返すと、ユウは下を向いた顔に朱を走らせた。
オレが掴んでいた袖口が、ユウの腕の震えに合わせて僅かに揺れる。

「……俺だって……俺、だって…………
好き



一瞬、カミナリに打たれたような衝撃がオレの中を駆け巡った。
すぐさま反応できなかったのはその所為だ。
ユウが俯いた状態からオレの様子を伺うように上目遣いになって…。
『ラビ…?』と不安げな声を聞いた瞬間、オレはその呪縛から解放された。

「もーーーッ!! ユウって本当に可愛いさーー!!」

力の加減が出来ないくらい、思いっきりユウを抱きしめた。
だって、もう! あまりにも可愛いさ!!

「テメェ、ラビ!! さ、さっきまでのしおらしい態度はどうしたッ?!」

オレの腕の中でモゴモゴと動くユウを、更に押さえつけるように抱きしめる。

「いっつも言ってるけど、オレはユウのことが大好きさーッ!!」
「分かってる!」

いつもは抱きしめても嫌がってるだけのユウが、今日は違った。
バタバタと一頻り暴れた後で、
オレの背中に回された腕とか。近づいてきた顔とか。
触れた、唇とか……

「だから、俺も好きだって言ってるだろ」



眩暈がするような告白、とか。






End......