なぁ、
俺のこと好きって言って?



* Do you love me? *



ユウの口は嘘吐きさ。
本当はオレの事を好きで好きで仕方がないはずなのに、一向に愛の言葉を囁こうとしねぇし。
好きなものも、好きじゃねぇっていうんだ。だから、誤解する。
誰だって『別に好きじゃねぇ』って言われたら、あんまり好きじゃないんだって解釈するだろ?
だから親切心からカボチャのテンプラだって喰ってやったのに…
そしたら、その日は口も利いてくれなくなった。
本当はカボチャのテンプラはユウの好物だったらしい…!
最後に残してあったのも、最後のお楽しみってヤツだったんだ。
信じられねぇ。
絶対、先に好きなものから食べるタイプだと思ってた!
……まぁ、いいさ。
好きなコの好きな食べ物をチェックしてなかったオレにも、落ち度があっただろうし。
はぁー、それにしても…

…本当にユウの口は嘘吐きさ。



「………なら、リナリーは?」
「別に好きでも嫌いでもない」

ユウの周りの人間関係を知るために、質問攻めにする。
誰が好きで、誰が嫌いか……
でも、さっきから同じような答えしか返ってこない。
『別に』とか、『好きでも嫌いでもない』とか…
酷い時には『そんなヤツは知らねぇ』とか。
これじゃラチが明かない。

「それじゃ全然、参考にならねぇよーぅ」

オレは溜息と共にぼやく。
『なら無駄な質問するなよ』とユウが呆れ顔でこっちをみる。
が、まだ諦めるには、ちょっと早いさ!

「じゃぁ、アレンは?」
「…あいつは嫌いなタイプだ」

初めて不快感を露にして、ユウは応えた。
アレンもユウと同じくらい面白いヤツなんだけどな?
同属嫌悪ってやつか?
それとも、素直じゃないユウのことだから、
可愛い新入りの後輩は、ワリと気にいってんのかな……。

「それじゃ、オレは?」
「…………」

ユウが嫌いだと言ったアレンのことを聞いたときにも勝る、超絶に不機嫌な顔。
露骨に嫌な顔をするユウに、けれどオレは真顔で応えた。
沈黙のまま、けれど逃げる事は許さない。
ユウがオレの視線から逃れるように、俯く。

「なぁ、オレは?」

尚も問い続けるオレに、返ってくるのは沈黙ばかり。
伏せた目と顔の下で、どんな表情をしてる?
凄い気になるんさ。
すぐ側まで回り込む。
ユウの横に座り込んで、まっすぐに腕を伸ばして肩を抱いた。
綺麗なユウの横顔を正面に見て。
いつもなら即行で飛んでくる罵声の一つもなく、ただ静寂だけが返された。

流石に淋しくなって、頬にキスをした。

「なぁ、」

ペロッと舌を出して、猫みたいにユウの顔を舐めた。
ヤメロと制止する声もなく、抵抗する素振りもなく…
ただキツク閉じられた瞳が、僅かに湧き上がる快感を耐えているのが分かる。
それには、とっても誘惑される。そそられるけれど。
理性を働かせて、押し倒すのは無しにした。

「なぁ、オレのこと好きって言って?」

閉じられていた瞳が開かれ、オレを見る。
唖然としたような顔は、いつものユウと違って可愛いけど…
まだ、ダメ?
相変わらず沈黙だけれど、なにか言おうと迷うように、ユウの唇が震えていた。
滑稽なことをしていると思う。
自嘲気味の笑いが込み上げ、聞き方を変えた。

「オレのこと好き?」

――そこに生まれるしばしの逡巡は、きっと恥ずかしいんだろ?

「あぁ……」

肯定の意味を。
頷きながら言ったその後で、ユウは不快そうに顔をゆがめる。
それが照れ隠しだと知ってるオレは敢えて知らないふりをする。
けど、やっぱり可笑しくて、微かに笑った。
それだけで、再び沈黙が訪れたけど。
オレにとってはもう、その沈黙さえも幸せだった。

「お前は?」

静かな空気を打ち破ったのはユウ。
不覚にもユウの言葉が意図するところが分からず、オレは首を傾げた。
『何?』と聞き返せば、チラッとこちらを見ただけで視線を逸らすユウ。
相変わらず、肩口から抱きしめられたまま。
相変わらず、嫌がりもせずにオレにされるがまま。

ユウはもう一度、口を開いた。

「俺のことも好きって言……」

言葉の後半は強引に飲み込ませた。
文字通りに唇を奪って、何も言えないようにした。
ユウも。必然的に、オレも。

だって…知らねぇ、そんなの。
何度も言ってるような気がして、実は言ってない。
他の事で…例えばキスとか。そんなんで伝えてるって。
誤魔化してきてるって。やっぱりユウは気づいてた?
核心に触れる事って、案外いつもは出てこないもんだぜ。
常に想ってる、好きで好きでしかたのない気持ちだって、
ユウの顔見ただけで言えなくなるんさ。
ユウの存在はそれだけで、何か言おうとしてるオレから、言葉を奪う。

だって恥ずかしかったりもする。今更みたいな気がして…。
でも、ひょっとして…
オレが聞きたがっていたのと同じように、ユウも聞きたかった?
もしかして、言って欲しかった?

「は…ッ、…どうなんだよ」

さっき貪ったばかりの唇から、挑発的な声音。
擦りつけるようにして奪ったからなのか、その感触を確かめるためなのか…
それとも、まったく無意識なのか。
ユウは自分の唇を、オレに見せ付けるように舌でなぞった。
扇情的。その行為一つに煽り立てられる。

「そんなの……、好きに決まってるさ」

当たり前すぎて、遠ざかっていた言葉。
情けないくらい頼りない声音で、オレは恥ずかしくなる。
言葉にしてしまえば、これほど安堵する言葉はないのかもしれない。
オレの情けない姿を見て可笑しくなったのか、ユウは微かに口の端を吊り上げて微笑った。

「あぁ、そうかよ」

満足そうにこちらを見たユウが、何か悪っぽい笑顔に変わる。
オレとユウの当たり前。
その気持ちを、もっともっと当たり前の言葉にするために、
ユウは、さも当然というように言い放った。


「俺も、好きだぜ?」





End......


文頭の『なぁ、俺のこと好きって言って?』は、実は神田の心の声なのですよ…。(恥)